政権交代した聚慎では、新国王の強い意向により、身分の上下を問わず広く国民の意見を採り入れる政策を採り入れた。その方策の一つとして、月に三回、目安箱を設置し、誰でも意見・要望を投書できるようにしていた。
そして今回、聚慎軍の本部にも目安箱を設置し、兵士達の生の声を集めてみようという試みが成されたのであるが――。

第一回目

阿志泰:将軍、目安箱回収してきました。早速何件か入っているみたいですよ。

文秀:おしっ、見せてみろ。あいつらどんな事書いてきやがったかなあ。

早速ですが、陳情いたします。
『曼荼羅華』は手に入りませんでしょうか。
無理なら採取部隊を編成していただければ自分で取りに行きます。
研究試料として必要なのです。

――魔法部隊 元暁

文:『曼荼羅華』だあ? のっけからまた妙な要望が出てきやがったな。

阿:根っこが人の形をしている珍しい薬草ですよ。西洋では『マンドラゴラ』って呼ばれてます。魔術の触媒として使うものなんですけど、何でも、人の望む幻覚を見せることができるとかなんとか……。すごく手に入りにくいんです。

文:そんな怪しげな材料で何の実験をするつもりなんだあいつは……。余計な事に人員を割く余裕はないぞ。いずれ再開する悪獣どもとの戦に備えにゃならんからな。

阿:今回は諦めてもらうしかないですよね。あ、でも『根っこがちょっとエッチな形に分かれている大根』なら家にありますよ! 雄と雌!

文:……じゃあ、それ、渡してやれ。(雄と雌?)

で、元述郎とはもうヤっちまったんですかい?

――幽霊部隊 灘

阿:直球で来ましたね。

文:軍務と関係ねーだろ!! ――次!!

花郎部隊の戦闘服はミニスカートが良いであります!
士気が上がると思います!

――匿名希望

文:野郎のすね毛で士気が上がるわけねえだろうが。アホか。

阿:さすがに将軍は現実派ですね! 元述郎の生脚など見るに値しないわけですね!

文:そんな誘導尋問に俺はひっかからんぞ。

阿:仕方ありません。家にある大根にミニスカートをはかせて我慢するように言いましょう。

文:元述は大根足じゃねえ!

元述郎 ハァハァ(*´Д`)

――名無し

文:これは意見か? 要望か? ああ?

阿:えーと、元述郎を見ていると呼吸困難に陥るのでどうにかして下さいという要望ととりました。

文:そのまま窒息してしまえ!

阿:もしくは、将軍も一緒にハァハァするべきだという進言と見ました。

文:しねえよ! 俺は変態じゃねえ!

陳情いたします。
花郎部隊の寮内で盗難事件が頻発しております。
夜回りの人数を増やすなどして警戒を強めておりますが、敵は内部の事情に通じているものか、裏をかかれて三度も取り逃がしました。
隊士達の間にも相互不信が生まれつつあり、このままでは部隊の士気に関わります。
本来ならば自力にて解決すべきであり、将軍のお手を煩わすべき事柄ではないと存じますが、どうかお力添えを賜りたく。

――花郎部隊 元述

文:やっとまともな要望が出たと言いたいころではあるが……これは俺を通すより軍警に直接届け出た方がいいんじゃねえか?

阿:そうですね。何か言いにくい理由でもあるんでしょうか。――あっ、下にもう一枚重ねてあるみたいですけど。

追伸:
 それにしても男の下着なんて持っていって、どうするんでしょう? 必要なら、購買で売っているのに。
 風呂に入るたびに盗難にあうので、そのうち履くものが無くなってしまいそうです。
 早く犯人を捕まえたいものです。

――元述

阿:……なるほど、聚慎のエリート部隊で下着泥棒が発生したとは確かに公にしにくいものがありますね。しかも部隊を束ねる隊長自らが被害に遭ったとあっては、沽券にも関わりますしね。

文:……………………。

阿:えっと、落ち着いてくださいね、将軍。

文:(深呼吸)……灘に捕まえさせよう。それでさっきのアホな投書は取り消しにしてやる。

阿:わかりました。早速今晩より幽霊部隊に警備させましょう。

文:それにしても、男の下着なんて盗む奴がいるとはなあ……犯人は女か?

阿:やっぱり、履いたり被ったり匂いをかいだりしてるんでしょうか。

文:気色悪っ!! なんというか、世も末だな。

阿:戦争という狂気が、人を変態行為に走らせるんでしょうか。将軍ほどのお方ともなると、ストレスも並の兵士の比ではないでしょうから、暴走したらすごい事になりそうですよね。

文:お前はさっきっからなんなんだ。そんなに俺を変態にしたいのか。

阿:と、とーんでもない!

あー、なるほどね。文秀に面と向かって文句言える奴なんてそういないだろうし、いいアイデアなんじゃないか?
私は言っちゃうけどね。
それで、元述とはもうやっちゃったのか?

――心の友ヨリ

阿:主上殿下も興味津々の本日の議題です。

文:そんなもの議題にした覚えはねーよ。

阿:でも、似たような質問は結構来てますよ。ほとんどが匿名ですけど。まあ、確かに将軍に面と向かって下世話な質問できる兵士はそうそういないでしょうし。

文:下世話だと思うんなら、そろそろこの話題はやめておけ。

阿:はーい。ということで、今日の分はこれで終わりです。

文:やれやれ……初回からこんな調子じゃ、先が思いやられるな……。

今回のまとめ:
みんな将軍と元述郎の恋愛沙汰に興味津々だということがわかりました。
下着泥棒に対しては幽霊部隊に対応させることになりました。