文秀「………………」
元述「どうしたのですか、将軍」
文秀「お前の使ってるそれは、ぬか袋だよな。ずいぶん古風なものを使っているんだと思ってな」
元述「お嫌でしたか? 我が家は昔からこれなんですが」
文秀「そうではないが、石鹸は使わないのか? 今時、どこでも売ってるだろう」
元述「市販のものは……匂いが、あまり好きじゃなくて」
文秀「そうなのか? 意外と好みにうるさい奴だな。しかし石鹸の方が良く落ちるだろう。お前は綺麗好きだから、その方がいいと思うが」
元述「毎日風呂に入っていれば、ぬか袋でも充分汚れは落ちますよ。髪は専用の洗粉がありますし。特に不自由はありません」
文秀「まあ、毎日洗ってりゃそうだろうな。しかし不思議だな」
元述「何がですか?」
文秀「お前の体からはいつもいい匂いがするんだが……」
元述「はあ……昼食の出汁の匂いでも染み付いてるんでしょうか。焼肉とか」
文秀「いや、そういう意味じゃなくて」
元述「そうおっしゃられても、自分ではよくわかりません……な、なんです?」
文秀「手伝ってやろう」
元述「結構です!」
文秀「まあそう言うな。さっき手伝ってくれた礼だ。……体が冷えてるな。さっさと終わらせて湯船に浸かった方がいいぞ。二人がかりなら早かろう、ほれ」
元述「しっ、下は自分でやりますから!!」
文秀「いてっ。ところで市販の石鹸が嫌いなのは、匂いがいやなんだろう。だったら、どんな匂いなら気に入るんだ? どういう匂いが問題なのかな?」
元述「どうだっていいでしょう、そんなの。手、それ以上下げたらひどいですよ!」
文秀「どうひどいのか教えて欲しいもんだ。んーっ、やっぱりいい香りがするな。女のように香水でも振りかけてるんじゃないだろうな」
元述「そんなわけないでしょう!」
文秀「なあ、市販じゃなければいいのか? 花郎の風呂では使ってないのか、石鹸。ぬか袋は泡立たないからつまらんな。俺は泡が出る方が好きなんだが。ほれほれ、素直に教えてくれんと、気になってうっかり手が滑りそうだぞ~」
元述「わかりました! 言います! 言いますから……っ! ちょ、そこダメ!!」
(間)
文秀「なるほどな……そんな事があったのか」
元述「それで……獣脂を使った石鹸はどうしても、脂のにおいを消す為に香料をたくさん入れるでしょう。あの独特な強い匂いをかぐと、あの時の事が連想されて、いやな気持ちになるんです」
文秀「…………」
元述「兵士達と一緒に風呂を使う時は、贅沢は言えませんが。逆に戦場では、血なまぐさいのが当たり前ですから、今さら気にしてもしょうがないんですけど」
文秀「匂いというものは、記憶とかなり強く結びつくことがあるからな。……すまなかったな。いやなこと思い出させて」
元述「いいんです。話してかえってすっきりしました」
文秀「そうか……」
元述「……」
文秀「においか……なあ元述、本物の高級石鹸は、植物油脂を原料にしているって知ってたか?」
元述「そうなのですか? 知りませんでした……」
文秀「昔からの、王宮御用達の店があってな。それは一部の王侯貴族にしか手に入らないんだが、南方の椰子の産地では、椰子の油を使った石鹸が安値で出回ってるんだぞ。そういえば俺の私邸で使ってるのもそうなんだが……うちで風呂を使ったときに気付かなかったか?」
元述「将軍の、家……でっ!? ぃやっ、あのっ、き、気付きませんでしたっ……」
文秀「? あ、あー、そうか。あの時はそれどころじゃなかったか! うはは、はぶっ」
元述「もう、あがります!!」
文秀「まあ落ち着け。まだ充分温まってないだろう。――でな、あれは香りもきつくなくて、俺はいいと思う。お前も獣脂の臭いがしない石鹸なら、使えるんじゃないのか」
元述「………………」
文秀「どうなんだ?」
元述「ええ、多分……」
文秀「興味でたか? いつでも使わせてやるぞ?」
元述「えんっ、遠慮します!」
文秀「別に何もせんぞ?」
元述「いえ、そうたびたびご厄介になるわけには参りませんからっ」
文秀「湯上りのお前はいい匂いだったがな~」
元述「覚えてませんっ!!」
文秀「そんなにむきになるとのぼせるぞ。まあ、倒れてもちゃんと介抱してやるから安心しろ」
元述「誰のせいですか……」
文秀「よしよし」
元述「……くすっ」
文秀「どうした?」
元述「いえ、泡が出るのが好きだなんて、将軍も意外と子供っぽいところがおありだと」
文秀「そりゃあ、好きさ。なにしろ、泡が出れば出るほど……」
元述「出るほど?」
文秀「手が滑りやすくなる」
元述「!!」
viasxrsqs7808 Eメール URL 2010年12月30日(木)22時49分 編集・削除
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