手を出してごらん、と兄に言われて、幼い元述は素直に両手を差し出した。その小さな掌の上に、兄の手にした振り出しの口からころころと小さな粒が転がり落ちる。
「兄さん、これは何?」
それは金平糖という、砂糖で出来た珍しいお菓子だが、兄は笑って頭の上を指さした。
「あの夜空に光る星は実はとても大きな塊なんだ。それが流れ星になって地面に落ちると粉々に砕けて、こんなに小さくなってしまうんだよ」
星空をそっくり写し取ったような澄んだ黒い目で、弟は兄を見上げた。掌の上の星粒はなるほど天にあるそれと言われてみれば似ている気がした。地に落ちると輝きを失うのだろうか、それはかつて自分の放っていたいただろう星明かりを受けて、鈍く白く光っていた。
「これが星……」
兄さんは、なんてものを僕にくれるんだろう。元述は愛らしい頬を赤く染めて、大切そうに掌の星を握りしめた。
「どんな味がするか、食べて御覧」
兄はしゃがむと、弟の顔を下から覗き込んで、楽しそうに言った。
満天の星の下の、草の海。夜露がきらきらと光って、兄の目の中にも無数の星が瞬いていた。
夢のような夜。夢のような時間。
口に含んだ星のかけらは魔法のように甘くて、胸がどきどきした。
「今の家はここだ。毎日ここへ遊びに来たくて眺めてたら、本当に来れたんだ」
兄が消え、夢の世界も消えて、久しぶりに夜の野原でかくれんぼをした。名前も知らぬ少女は、自分は月から来たのだという。
ああ、それでは昔、月からたくさん落ちてきたあの星の一つが目の前の子供だというのか。なんてことだ。つまり悪獣は金平糖のようなものだったのか。
なんて、本当は知っている。流れ星は金平糖にはならない。元述だってあれからちょっぴり大人になったのだ。
それでも、星空の下で過ごした時間は兄さんとの大切な思い出だった。元述にとって、今でも金平糖は星くずの味、ミルキーはママの味なのだ。母さんの顔なんて知らないけど。
「それじゃ、楽しかった」
少女の言葉は、元述の気持ちそのままだった。たった一夜の出会いだけれど。この夜も、元述の記憶の中に深く刻まれるに違いない。
例え、あの少女が人間の敵――悪獣の一人なのだとしても。
また遊ぼう、と言い残して去ってゆく少女の背を見送りながら、元述は心の中で呟いてみた。
「さようなら、金平たん――」
取り敢えず、あだ名決定。
元述が金平たんの正体を知る時があったかは、未だ語られていない。
viasxrsqs4531 Eメール URL 2010年12月30日(木)11時24分 編集・削除
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